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Vol.8 インフルエンザと漢方

最終更新日:2011年1月25日

ハッカ 連載スタート時から、アトピー性皮膚炎、気管支喘息と、アレルギー疾患に関する話題を提供してきました。今後もアレルギーに関する情報については随時ご紹介しようと思いますが、季節柄、インフルエンザに関する漢方治療について今回はお話しします。

 さて、漢方は慢性的な病気にしか使われず、感染症のような急性病には、抗生剤や抗ウイルス薬のほうがよいと考えている方も多いかと思われます。しかし漢方には、抗生剤のない時代に、ありとあらゆる感染症に対抗するために編み出されてきた側面もあります。特に日本の漢方家が、キリスト教の聖書のように、大事な原典として用いている書物に、「傷寒論(しょうかんろん)」というものがあり、これは主に感染症のような急性病についての治療が書かれたものです。傷寒とは、外感発熱病ともいい、外邪(がいじゃ)のなかでも特に風寒邪(ふうかんじゃ):コラムVol.2  を参照下さい)によって引き起こされる急性病を指し、現代のインフルエンザやかぜにほぼ相当すると考えて良いでしょう。なにしろ、傷寒論をまとめたという伝説の医師、張仲景という西暦200年前後の人は、当時の疫病により短期間のうちに多くの親戚が死んでしまったことにショックを受け、その治療に関する情報を収集したりして、本を書いたというふうに伝えられています。その疫病は、「初期は発熱していることもしていないこともあるが、必ず悪寒し、関節など体の痛みを訴え、嘔吐し…」というもので、インフルエンザに非常に類似しているのです。インフルエンザはご存じのように、パンデミックという大流行を起こします。傷寒論に書かれている傷寒も、インフルエンザのパンデミックだった可能性があるのです。

 傷寒論には、日本人なら誰でも知っている葛根湯(カッコントウ)が登場します。少し寒気がして、なんとなく鼻やおなかがおかしい、といった通常のかぜのときに、葛根湯をうまく使うと、症状が軽く、短く済んでしまうことがあります。ちょっと寒気がするな、首筋がゾクッとする、というときに、葛根湯を温かいお湯で飲んで、体を温める。それもジワッと汗をかくまで、時間を空けずに、というのがコツと言われています。しかし残念ながら、インフルエンザのように、高い熱と寒気、関節痛や咳がでるような場合には、葛根湯ではちょっと対応できないことがあります。このような場合、麻黄湯(マオウトウ)が適応になります。麻黄湯葛根湯の両方に含まれ、重要な役割を果たす、麻黄という生薬があります。これは、汗を出し、気道の働きを調整し咳を止める働きがなどあります。初期の段階で、麻黄湯を必ずお湯で服用し、毛布などにくるまって体を温め、わざと発汗させることが重要です。1日分の処方を、短時間で飲む、といった方法が有効です(あまり独自の判断ではされないほうがよいでしょう、漢方に詳しい先生に聞いて下さい)。汗がしっかりでたら、着替えて、水分補給をちゃんとしてください。脱水を避けるためです。重要なポイントは温めて、しっかり発汗することです。つまり、熱が出たら解熱剤で下げる治療とは反対のことをしています。悪寒のような強い寒気のある場合、解熱剤で体を冷やしては返って症状が長引いてしまうことがあります。

 新聞などでもインフルエンザには麻黄湯などとの記事も載ったり、タミフルが副作用を疑われて使いづらかったりという理由から、漢方を普段あまり使わない先生からも、麻黄湯がよく処方されるようになってきました。しかし、2009年頃から騒動となった新型インフルエンザには、麻黄湯はあまり効果がありませんでした。やっぱり漢方は効かない、という声も聞こえてきました。ところが調べていくと、当時の新型インフルエンザは、発熱があっても悪寒のない、傷寒タイプではないものが多いことがわかりました。つまり、寒気のかわりに体が熱っぽい感じや強いノドの痛み、口渇などが主な症状の、漢方的には「温病(うんびょう)」と言われるものが多かったのです。これは、温め汗をかかせる処方の麻黄湯葛根湯では、かえって悪化させる場合があり、反対に冷やす生薬の入った処方である、銀翹散(ギンギョウサン)清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)、石膏の入った麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)などを使う必要があります(銀翹散は、病院で処方できません。薬局では市販のものが購入できます)。実はチャンスを得て、11月でも蒸し暑い中国広州で、夏場に流行したインフルエンザの治療について、現地の先生方からお話を聞く機会があったのですが、銀翹散などの熱を冷ます漢方がよく効いたというデータを見せてもらいました。広州はあのSARSが問題になった場所でもあります。SARSにも漢方で治療をされた先生方の話には、説得力がありました。このとき同行された熊本県の先生も、清上防風湯などで治療しているとのお話をされていました。季節や地域、また体質によって、同じインフルエンザでも寒気の傷寒と、熱感の温病になり、それぞれ違う処方が必要なのに、単に西洋医学的な病名のみで漢方を選ぶと、効かないどころか悪化もあり得るという、重要な視点を改めて学ばせてくれる経験でした。

 さて、今シーズンも新型を中心としたインフルエンザの流行が各地で起こっています。今回から、たった1回吸い込むだけでよいという国産のインフルエンザ新薬も使えますから、なにも漢方だけでインフルエンザを治療しようとは思っていません。しかし、タミフルにまつわる議論や薬剤耐性ウイルスの問題など、西洋薬だけで万全とはいえない現代、上手に漢方を使うことで、よりよい医療を目指すことがますます重要になっています。ちなみに、タミフルの標準投与日数は5日で、5日分の薬価は約3000円ですが、麻黄湯を仮に5日分使ったとしても、薬価は約300円(メーカーにより異なる)です。タミフル1人分のお金で、麻黄湯なら10人以上の患者を治せるかも知れないのです。医療費削減を叫ぶ政治家は、日本から漢方をなくさないよう、生薬の生産への配慮を積極的にするべきでしょう。

文責 三重大学附属病院漢方外来担当医・小児科専門医 高村光幸

《参考文献》
医学生のための漢方医学基礎編(安井廣迪・東洋学術出版社)
傷寒論を読もう(髙山宏世・東洋学術出版社)
中医臨床2009年12月、通巻119号(東洋学術出版社)…特集で広州での討論会が掲載されています

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